ウィテカーについて
これらの作品を練習するにあたって、詩人のオクタビオ・パス、ミュリエル・ルーカイザー、エドマンド・ウォーラー、エリック・ウィテカーについて調べました。
Ⅰ.関係者
Ⅰ-1. オクタビオ・パス
オクタビオ・パス(Octavio Paz、1914年3月31日 – 1998年4月19日)は、メキシコの詩人・批評家・外交官。
メキシコ・シティ出身。進歩的文化人だった祖父の影響で文学的関心を深め、19歳で処女詩集『野生の月』を発表している。1937年、パブロ・ネルーダに招かれて、内戦下のスペインで開かれた反ファシスト作家会議に参加。翌年に帰国してからは、新世代を代表する作家として精力的な執筆活動を開始する。1944年にアメリカに留学、翌年にはパリに渡る(この時、アンドレ・ブルトンらの知遇を得る)。
1946年には外交官になり、ヨーロッパ各国を転々としながら『弓と竪琴』『孤独の迷宮』などを執筆する。しかしメキシコシティオリンピック直前に起こった反体制デモに対する政府の弾圧に抗議してインド大使の職を辞し、その後はケンブリッジ大学やテキサス大学、ハーバード大学などで教鞭を採りながら執筆活動を展開した。ノーベル文学賞ほか多くの賞を受賞し、自身の主宰する雑誌「ブエルタ」も、1993年にアストゥリアス皇太子賞コミュニケーション及びヒューマニズム部門を受賞した。
「弓と竪琴」の解説者牛島信明さんによると1952年にインドと日本に訪れています。元スペイン大使の林屋永吉さんと松尾芭蕉の「奥の細道」のスペイン語訳を手掛けています。
山口昌男が「弓と竪琴」の補論で「オクタビオ・パスと文化記号論」という題名で解説しているように、隠喩(メタファー)の使い方に特徴があります。
Ⅰ-2. ミュリエル·ルーカイザー(Muriel Rukeyser)
スペイン語から英語に翻訳したのはミュリエル·ルーカイザー(1913年12月15日- 1980年2月12日)という詩人で女性。
平等、フェミニズム、社会正義、そしてユダヤ教についての詩で知られる、アメリカの詩人や政治活動家であった。
彼女の最も強力な作品の一つは、「死者の書」(1938年)と題する詩でホークズネスト事件という、鉱山労働者数百人が死亡した産業災害の珪肺を扱ったものです。
彼女の言葉に、「世界は原子でできているのではない。物語でできているのだ」というのがあります。
ミュリエル・ルーカイザーのeverywhereという詩を、アーサー・ビナードと木坂涼(夫婦)が日本語の詩にして、横井久美子が曲をつけて、9条ピースウォークのイメージソングとして発表。
どこでもわたしたちはどこへ歩いて行こうと 作りながらゆく、作りながらゆく
どこで抗議しても、そのあいだじゅう 種をまきつづける、種をまきつづける
詩を作り、種をまき、子供に食事を与え、 成長を見守り、 家を建て、
たとえどんな力に、立ち向かったとしても 私は食事を作って、種をまく
私はどこへ歩いて行こうと、作りながらゆく、作りながら行く
Ⅰ-3.エリック・ウィテカー
エリック・ウィテカー(Eric Whitacre, 1970年1月2日 – )はアメリカ合衆国の作曲家、指揮者。
ネバダ大学ラスベガス校にて学士、ジュリアード音楽院にて修士を取得。アメリカでは合唱曲と吹奏楽曲がとりあげられることが多い作曲家。大変パート分割が細かく、曲によっては16パートを超える分割をすることもある。結果として密集和音は調性的なクラスターに近くなる。
合唱曲
Animal Crackers (詩:Ogden Nash)
A Boy and A Girl (詩:Octavio Paz)
Cloudburst (詩:Octavio Paz)
Five Hebrew Love Songs (詩:Hila Plitmann)
Her Sacred Spirit Soars (詩:Charles Anthony Silvestri)
Leonardo Dreams of His Flying Machine (詩:Charles Anthony Silvestri)
Little Birds (詩:Octavio Paz)
little tree (詩:E. E. Cummings)
Lux Aurumque (詩:Edward Esch; ラテン語訳:Charles Anthony Silvestri)
She Weeps Over Rahoon (詩:James Joyce)
Sleep (詩:Charles Anthony Silvestri)
This Marriage (詩:Jalal al-Din Rumi)
Three Flower Songs I Hide Myself (詩:Emily Dickinson)
With a Lily in Your Hand (詩:Federico García Lorca)
Go, Lovely Rose (詩:Edmund Waller)
Three Songs of Faith (詩:E. E. Cummings) i will wade out hope, faith, life, love i thank You God for most this amazing day
When David Heard (from II Samuel 18:33)
Water Night (詩:Octavio Paz 訳: Muriel Rukeyser)
Winter (詩:Edward Esch)
Ⅱ.作品について
夜の水は詩集「向日葵」(1948)、恋人たちは詩集「雲の状況」(1944)に所収。
Ⅱ-1. WATER NIGHT 夜の水
Night with the eyes of a horse that trembles in the night,
夜のなかでふるえる馬の目を持つ夜が、
night with eyes of water in the field asleep
眠れる野原の中の水の目を持つ夜が、
is in your eyes, a horse that trembles,
ふるえる馬のいるきみの眼の中にある、
is in your eyes of a secret water.
ひそかな水からなるきみの眼の中にある。
Eyes of shadow-water,
日陰の水の眼、
eyes of well-water,
井戸の水の眼、
eyes of dream-water.
夢の水の眼
Silence and solitude,
沈黙と孤独が、
two little animals moon-led,
月に導かれた幼い二頭の動物のように、
drink in your eyes,
あの(きみの)眼の中で飲む、
drink in those waters.
あの池の中で飲む。
If you open your eyes,
きみが目を開いたら、
night opens, doors of musk,
夜の麝香(じゃこう)の門が開かれ、
the secret kingdom of the water opens
夜の中心から湧き出る
flowing from the center of night.
秘密の水の王国が開かれる
And if you close your eyes,
そしてきみが目を閉じたら、
a river(, a silent and beautiful current) ,fills you from within,
河,(静かで、美しい流れ)が内部からきみを満たし、
flows forward, darkens you:
あふれ出してきてきみを失明させる
night brings its wetness to beaches in your soul.
夜がきみの魂の中の海辺を濡らすのだ。
(translation: Muriel Rukeyser)
真辺 博章訳
Ⅱ-2. A boy and a girl 恋人たち
Stretched out on the grass,
草の上に横になった、
a boy and a girl.
一人の若者と一人の娘が。
Savoring their oranges,
オレンジを吸いながら
giving their kisses like waves exchanging foam.
キスを交わしながら、波がその泡を交わすように。
Stretched out on the beach,
浜辺に横になった、
a boy and a girl.
一人の若者と一人の娘が。
Savoring their limes,
ライムを吸いながら、
giving their kisses like clouds exchanging foam.
キスを交わしながら、雲がその泡を交わすように。
Stretched out underground,
地下室で横になった、
a boy and a girl.
一人の若者と一人の娘が。
Saying nothing, never kissing,
何も言わずに、キスもせずに、
giving silence for silence.
沈黙を交わしながら。
Ⅲ.言葉の意味
隠喩(メタファー)
「人生はドラマだ」はもっとも初歩的なメタファーである。「…は…だ」という形で比喩だということがわかりやすい。次のようなものもメタファーである。
例1:人生は旅だ。私と一緒に旅をしてみないか?
この例などは、ひとつめの文に加えて、ふたつめの文「私と一緒に旅をしてみないか?」もメタファーであるが、ひとつめの文がメタファーだと分かるため、ふたつめも引き続きメタファーだと理解されやすい。
次の会話の例にもメタファーが含まれている。
例2:
A 「どうしたのですか?」
B 「それが・・・、最近、いくら努力してもうまく行きません。つらいことばかりなのです。」
A 「そうですか・・・。一緒にがんばりましょう。闇が深ければ、夜明けは近いのですよ。」
この会話では「闇が深ければ、夜明けは近い」がメタファーである。
例3:わらべは見たり、野中のばら (男の子は見つけた、野に咲く薔薇を) :ゲーテの詩『野ばら』
例4:私の庭にスミレが咲いた。
例3、例4のようなメタファーは、恋をする男性の心に生まれることがあるものである。
聖書は、メタファーと譬え話に満ちた文書の典型としてしばしば挙げられている。聖書およびイエス・キリストのたとえ話は、西洋文学におけるメタファーのありかたに多大な影響を与えている。
例5:わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝である。もし人がわたしにつながっており、またわたしがその人とつながっていれば、その人は実をゆたかに結ぶ。 : 新約聖書、『ヨハネによる福音書』 15:5、
例6:私は、世の光です。私に従う者は、決して闇の中を歩むことがなく、いのちの光を持つのです
:新約聖書、『ヨハネによる福音書』 8:12
例7:あなたがたは、地の塩である。もし塩のききめがなくなったら、何によってその味が取りもどされようか :新約聖書『マタイによる福音書』 5:13
Ⅳ.参考文献
1.オクタビオ・パス 木村栄一訳 もう一つの声 岩波書店(品川図書館):詩論
2.オクタビオ・パス 牛島信明訳 弓と竪琴 岩波文庫(品川図書館):詩論
3.ラテンアメリカ五人集 集英社文庫(品川図書館):白(詩)、青い花束(詩論)、正体不明の二人への手紙(エッセー)
4.オクタビオ・パス詩集 真辺 博章訳 土曜美術社出版販売(市川図書館)
5.続 オクタビオ・パス詩集 真辺 博章訳 土曜美術社出版販売(市川図書館)
6.オクタビオ・パス 井上義一、木村栄一訳 二重の炎 岩波書店(大田区立図書館):詩論
以上